猫の慢性腎臓病ってなに?
猫の慢性腎臓病とは、なんらかの原因によって腎臓の機能が3ヶ月以上低下した状態のことを示します。年齢に伴って腎機能は低下するため、高齢になるほど腎臓病の発生は増えていきます。10歳以上の猫の約30%、15歳以上では約80%が慢性腎臓病と言われており、猫の死因の中で最も多いのが慢性腎臓病です。
慢性腎臓病の初期にはほとんど症状を示すことはありませんが、長い期間をかけて徐々に悪化していき、腎機能の約70%が失われて初めて症状を示すことが大半です。そして、一度失われた腎臓の機能は回復することはありません。腎臓は尿を作ることで「老廃物の排泄」や「体液量・電解質の調整」、またホルモンを作ることで「赤血球の産生」や「血圧の調整」を行うなど、体にとって重要な役割を担っています。この機能が低下することで、高血圧や貧血を引き起こしたり、老廃物が体内に蓄積して「尿毒症」になってしまうと命に関わる状態になってしまいます。
猫の慢性腎不全の原因は?
腎臓の機能が低下する原因としては、先天性腎疾患や慢性腎炎、感染症、結石、腫瘍などがありますがはっきりとした原因がわからない場合もあります。腎臓の以外の泌尿器の病気(尿管結石や膀胱腫瘍、尿道閉塞など)が原因になることもあります。
猫の慢性腎臓病はどんな症状?
猫の慢性腎臓病の初期ではほとんど症状を示すことはありません。徐々に進行していくと、多飲多尿や脱水が見られるようになります。さらに進行すると元気消失や食欲低下、体重減少、嘔吐、下痢といった尿毒症の症状が現れます。そして最終的には腎機能が消失し、尿を作ることができなくなり死に至ります。
猫の慢性腎臓病はどうやって診断するの?
猫の慢性腎臓病の診断は、血液検査や尿検査、画像検査、血圧測定を組み合わて総合的に行います。
血液検査
猫の慢性腎臓病の診断において、基本の検査になるのが血液検査です。腎機能の評価のために、尿素窒素(BUN)・クレアチニン・SDMA(対称性ジメチルアルギニン)を測定します。SDMAは比較的新しい検査で、外注検査によって測定しますが、従来の尿素窒素(BUN)やクレアチニンよりも早期に腎機能の低下を検出できるだけでなく、脱水や食事の影響を受けないため正確な腎機能の評価をすることができます。
その他にも、貧血の有無や電解質(ナトリウム・カリウム・クロール)、カルシウム、リンなども確認し、慢性腎臓病の進行度や合併症を評価します。
尿検査
尿検査も腎機能を評価するために重要な検査で、尿比重(尿の濃さ)や蛋白尿などを評価します。
尿比重では、腎臓でどれくらい尿を濃縮できるかを評価します。腎機能が低下すると尿を濃縮することができなくなり、薄い尿になってしまいます。蛋白尿は、正常な腎臓では尿に漏れ出てくることはないタンパク質が、腎臓の障害によって尿中に出てしまっている状態のことです。蛋白尿の程度によって、腎臓の損傷の程度を評価することができます。それ以外にも、腎臓や膀胱で出血や炎症、感染が起きていないか、尿中に結石(結晶)ができていないかも確認します。
画像検査(超音波検査・レントゲン検査)
画像検査では、腎臓の大きさや形などの構造的な評価を行います。慢性腎臓病が進行すると、腎臓の萎縮や腎臓の表面が凸凹したりしてしまいます。また、慢性腎臓病の原因となるような嚢胞や腫瘤、結石の有無も確認します。
血圧測定
腎臓の機能が低下することで血圧の調整ができなくなり、高血圧になってしまうことがあります。高血圧によって、さらに腎臓に負担がかかったり、目や脳、心臓にも負担がかかってしまうため注意が必要です。
猫の慢性腎臓病のステージ分類について
猫の慢性腎臓病のステージ分類は、IRIS(International Renal Interest Society:国際獣医腎臓病研究グループ)が定めた、世界的に標準化されたガイドラインに沿って行います。IRISステージ分類では、主にクレアチニンやSDMAをもとにしてステージ1〜4に分類されます。さらに血圧や蛋白尿もサブステージとして、評価されます。IRISステージ分類では、ステージ毎に推奨される治療が変化していきます。
猫の慢性腎臓病はどうやって治療するの?
猫の慢性腎臓病は治ることはないため、治療では残された腎機能を守り、長い期間健康で過ごせるようにしていくことが目標になります。ステージ分類や体調に合わせて、食事療法や点滴治療、薬物療法を組み合わせていきます。
食事療法
食事療法は猫の慢性腎臓病の治療の中心になっており、基本的には腎臓病用療法食を使用します。腎臓病用療法食の主な特徴は、リン含有量の制限やナトリウムの制限、タンパク質の調整です。この中でも1番重要なのはリン含有量の制限です。慢性腎臓病が進行すると、尿からリンが排泄しづらくなり、高リン血症が起こります。高リン血症によって慢性腎臓病がさらに悪化することに繋がり、高リン血症を起こしている子は生存期間が短くなることが報告されています。そのため、腎臓病用療法食はリンの含有量を制限することで高リン血症を起こりづらくしています。
しかし、全ての慢性腎臓病の猫が腎臓病用療法食を食べればいいと言うわけではありません。早期の慢性腎臓病の場合には、過剰なリンの制限やタンパク質の制限は高カルシウム血症や筋肉量の低下を引き起こしてしまう場合があるため注意が必要です。
点滴治療
慢性腎臓病の猫の多くでは脱水を起こしてしまっているため、適切な水分補給が重要になります。水飲み場やご飯などを整えることで、自分で水分摂取をできるように工夫をしていきますが、それでも水分が足りず脱水を起こしてしまう場合には、皮下点滴による水分補給が必要になります。皮下点滴の量や頻度は、症例の体調や体重、ステージによって異なりますが、末期の慢性腎臓病の場合には毎日の皮下点滴が必要になることもあります。基本的には皮下点滴は病院で行いますが、場合によっては自宅で皮下点滴をしていただくことも可能です。自宅での点滴のやり方は病院で教えますので、気になる方はお気軽にご相談ください。
薬物療法
猫の慢性腎臓病の薬物療法は、病気の進行の抑制や合併症の治療などを目的に実施します。
高血圧を起こしている場合には、腎臓や目、脳、心臓を保護するためにACE阻害薬やカルシウム拮抗薬によって血圧のコントロールを行います。また、高リン血症の場合にはリン吸着剤を処方し、リンの吸収を抑制します。慢性腎臓病では、腎臓で産生されている造血ホルモンが減少し、腎性貧血を起こすことがあります。その場合には、エリスロポエチン製剤やダルべポエチン製剤の投与を行い、造血ホルモンの補充を行います。その他にも、尿毒症による嘔吐や食欲低下に対して、吐き気止めや胃酸分泌抑制剤、食欲増進剤なども組み合わせて治療していきます。
まとめ
猫の慢性腎臓病は、完全には治すことができず、猫にとっては避けることのできない病気です。しかし、定期的な健康診断で早期に発見し、適切な治療を行うことで長く健康に生活することも可能です。当院で実施している「わんにゃんドック」では、年に1回健康診断として血液検査や尿検査などを行うことができます。さらに、わんにゃんドックB・Cコースでは、腎臓早期マーカーのSDMAの測定や腹部超音波検査も行っているため、慢性腎臓病を検査するには十分な内容になっています。慢性腎臓病がご心配な方や健康診断を行いたい方は、ぜひご利用ください。
猫の慢性腎臓病が気になる、健康診断をしたいという方は、愛知県名古屋市近郊の「なぐら動物病院」までご相談ください。
獣医師 八竹直哉