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犬と猫の口腔内腫瘍
【目次】
口の中に腫瘍ができてしまったとき、皆さんはどうしますか?
口の中にも腫瘍はできます。歯茎や舌、頬の内側などにも腫瘍ができ、良性のものも悪性のものもできてしまうことがあります。お口の中ですから、発見が遅くなることもあり、気が付いた時には進行していて治療が困難な状態になっている場合もあります。また口の中の腫瘍は、ただ診察するだけであっても、鎮静などのかけないとなかなか口の中や舌下を見ることができない点がとても厄介です。高齢の子の場合、診察だけでもハードルが上がってしまい、まだご飯食べれているからいいかなと先延ばしになってしまうこともあります。
口腔内腫瘍の治療について考える
お口の中にできた腫瘍であっても、治療は基本的に外科手術で摘出することが第一選択になりますが、お口に中の場合、舌切除や顎切除が必要となる場合があり、手術によっては顔の大幅な変形や自力で食事ができなくなるなどの障害が出てしまうことが予想される場合があります。それらを想像すると、なかなか手術に踏み切る勇気がいりますよね。
治療の前に重要なことは、まずどの場所にどのようにできているか、またどんな腫瘍ができているかを診断することです。腫瘍の種類やその転移の有無などにより、手術するかを検討する材料となります。
悪性度の強い腫瘍で、すでに遠隔転移がある場合は手術の適応は難しいということなりますし、発見時に転移がなくても、悪性度の高い腫瘍で切除後に抗がん剤治療等の治療が望ましく、それらを行なっても余命は半年くらいという可能性がある場合、手術することが最善の選択なのかも迷われると思います。
摘出してしまえば、ほぼ完治する可能性が高い場合は、腫瘍をそのままにしておくことの方がデメリット(痛みや口臭、よだれ等によりQOLの低下)であるため、積極的に手術することを選択するとよいかと思います。
口の中にできる腫瘍の代表的なものをご紹介します。
<悪性腫瘍>
悪性黒色腫(メラノーマ)・・・きわめて悪性度が高く、リンパ節転移や肺転移が早期に起こる。歯肉、口唇、舌、頬など、あらゆる部位に発生する。広範囲に切除することが必須。切除したとしても転移している確率が高いため、切除後に放射線療法や化学療法などを検討する必要がある。
扁平上皮癌・・・口腔粘膜の上皮にできる悪性腫瘍で、発見が早く広範囲に切除できれば予後は良好。舌や扁桃にできた場合、転移率が高く、予後は数か月と報告されている。
線維肉腫・・・局所浸潤性が強く、顎への浸潤が頻繁に認められる。広範囲の切除が必要ですが、初期は良性の腫瘍と見た目が似ているため、早期発見が難しく、顎切除が必須となる場合が多い。
<良性腫瘍>
歯原性線維腫・・・よく見られる良性腫瘍。完全切除できれば予後はいいが、見た目では悪性腫瘍との鑑別が難しいため、病理診断が必要。
棘細胞性エナメル上皮腫・・・良性の腫瘍ですが局所浸潤性が強く、顎骨を破壊しながら増殖してしまう。命の危険はないものの、よだれや口臭、見た目の変形などQOLの低下が著しくなってしまうため、切除が不可欠となる。ただし顎骨に浸潤していた場合は、額切除などの広範囲な切除が必要となります。
歯肉過形成・・・細菌や物理的慢性損傷などにより歯肉や粘膜が過形成を起こし、腫瘍ではないが腫瘍のように見えます。
当院で下顎骨切除を行った犬の一例
1年前に下顎犬歯周囲の歯肉に腫瘍が発症し、病理検査で棘細胞性エナメル上皮腫と診断されたものの、手術による顔の変形を躊躇され、良性であったこともあり抜歯や下顎切除に踏み切れずに悪化してしまいました。このままですとお口周りの汚れや痛みなどでQOLの更なる低下が懸念されたため、下顎切除を決心され手術を行いました。


腫瘍は犬歯のみならず、後臼歯の下顎骨まで波及しており、また反対側の犬歯近くの下顎骨にまで浸潤していました。

今回は、術後の顔の変形や食事ケアを考慮し、反対側の下顎犬歯を残してギリギリ切除となりました。再発が心配されます。
しかしながら、術後の心配していた顔の変形は最小限にとどまり、食事も自分で取ることができます。


下顎骨の部分切除であれば、切除したとしても顔の変形は最小限となりますし、それほど見た目の変形はありません。早期であるなら切除することでQOLの向上につながります。いずれにしても、早期発見、早期治療が大切になります。
口腔内腫瘍の予防と早期発見について
お口の中は、普段、全く見ない方もいらっしゃれば、きちんと毎日歯磨きをされ観察している方まで、さまざまいらっしゃいます。
お口の中を定期的に見ることができれば、口の中の異常に早く気が付くことができ、歯周病や口内炎だけでなく、腫瘍にも早く気が付くことができます。
以前、頬の内側の小さな腫瘍をいち早く見つけてくれたご家族がいました。悪性黒色腫(メラノーマ)で、かなり高齢のワンちゃんでしたが、小さかったため簡単に切除することができ、快適なQOLを得ることができたのを覚えています。
犬や猫は口の中に少々違和感があっても、丸呑みして食べることができるため、初期は食欲だけでは判断できません。食べ方が変わってきたり、よだれが増えたり手や口周りの毛の変色などが見られてから始めて気が付く場合が多いです。その時は、すでに腫瘍や口内炎は進行している場合がほとんどですので、普段から口の中を見たり、口の中を触れるようにしておくといいですね。
愛知県東郷町 なぐら動物病院 獣医師 名倉美智子