お知らせ・コラム

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犬の病気

2023.04.03

犬の肝臓腫瘍

犬の肝臓腫瘍は肝臓外の腫瘍からの転移の方が多く、肝臓原発の腫瘍の約2.5倍の頻度で認められると報告されています。転移による肝臓腫瘍は基本的には外科的治療の対象外となりますが、急な出血による状態悪化を軽減する目的に手術を行うケースもあります。また肝臓原発の腫瘍は犬の腫瘍の1パーセント前後といわれ稀な腫瘍ではありますが、今回、肝臓腫瘍摘出手術を行う機会が多くありましたので、ご報告します。

犬の肝臓腫瘍の症状

犬の肝臓腫瘍の多くは無症状です。腫瘍が大きくなる前は、目立った大きな異常が認められず、健康診断などで偶然発見されることも珍しくありません。腫瘍が大きくなると、食欲不振や嘔吐 下痢などの消化器症状が認められることがあります。腫瘍が巨大化すると最終的に腫瘍が破裂し、腹腔内で出血を起こし、それに伴い急激な貧血が起き、虚脱やふらつきなど出血性ショックの症状を呈し、この状態になって初めて病気が発覚することもあります。

犬の肝臓腫瘍の診断

犬の肝臓腫瘍の診断は血液検査、レントゲン、腹部エコー検査、CT検査、細胞診断などの検査を組み合わせて、総合的な診断します。一般的にはエコー検査にて腫瘤の存在の確認を行い、可能であれば腫瘤の細胞を採取し、細胞診断を行います。

 超音波画像

肝臓腫瘍の中でもリンパ腫、肥満細胞腫、組織球性肉腫、胆管癌、神経内分泌腫瘍などの腫瘍は細胞診断で診断が可能ですが、犬の肝臓腫瘍によくみられる肝細胞癌、肝細胞腺腫、結節性過形成などの場合は、細胞診では確定できない場合が多く、術後の病理組織検査で確定診断を行います。無麻酔による細胞診は簡易的に行え、有効な検査ではありますが、腫瘍の状態によっては血液で充満した組織を穿刺する検査であるため、極端に大きく腫大していたり、明らかに大量の液体貯留が認められる腫瘍に対しては、細胞診断を行わず摘出手術に進む場合もあります。

 

犬の肝臓腫瘍の治療

犬の肝臓腫瘍において、エコーなどで肝臓原発の孤立性の腫瘍と診断された場合は外科手術による治療が可能となります。肝臓腫瘍の中で最もよくみられる肝細胞癌においては、外科的摘出後、比較的長く良好な時間が得られる場合が多く、他の良性腫瘍の場合と同様、積極的に手術を行うことで、のちに起こるであろう腫瘍破裂による出血性ショックを防ぐことができ、延命につながります。

ただし、孤立している腫瘍であっても細胞診断にて胆管癌と診断された場合は、すでに転移や播種的な広がりをしていることが多いとされているため、外科治療は難しいとされています。また血管肉腫の場合、術前の細胞診断での鑑別が難しく、手術後の病理検査で予後が悪いと診断されてしまう場合もあるため、手術を行うことのメリット、デメリットをよく考えた上で、外科的治療を選択していただきます。

↓写真は腹腔内出血を起こし、輸血を行いながら緊急手術を行った犬の肝臓腫瘍

 

肝臓腫瘍はその発生部位によって、手術の難易度が変わってきます。肝臓は大きく右領域、左領域、中央肝区域に分類されます。左領域は大静脈などの主要血管と距離があり比較的手術しやすいと言われています。一方右領域や中央肝区域に発生した肝臓腫瘍は、太い血管(後大静脈)が非常に近く摘出手術は非常に難しくなります。後大静脈起始部に腫瘍が発生している場合、摘出不可能と判断されることもあります。肝臓腫瘍の手術は肝臓の発生部位や大きさなどによって、肝臓の一葉をすべて摘出する肝葉切除術、肝葉の一部を腫瘍ごと摘出する部分摘出などがあり、症例ごとに対応を検討して手術法を選択します。

 横隔膜に癒着していた肝臓腫瘍

摘出した肝臓腫瘍

  

 

犬の肝臓腫瘍の予防

肝臓腫瘍は症状が乏しく、発見時には手遅れのケースも珍しくありません。定期的な健康診断などで早期発見ができ、適切な治療を行うことができれば、腫瘍の種類によっては良好な経過をが得ることができますので、定期的な健康診断で早期発見することが大切ですね。

 

愛知県愛知郡東郷町 なぐら動物病院